使途不明金、遺産の調査

使途不明金、遺産の調査

遺産の調査

被相続人と生前に生活をともにしていない場合などには、遺産の内容がほとんどわからないケースが多いです。また、生前に同居していた場合においても、相当後になって思いもしない遺産が見つかる例もあります。そこで、遺産分割の話し合いをはじめるためには、まずは遺産の内容をなるべく正確に把握することが重要です。相続財産の把握、調査は主に次のような方法によって行いますが、個別のケースによって、とるべき調査手法は異なりますから、あくまで例として参考にしてください。

被相続人と生活をともにしていた人物からのヒアリング

遺言の有無の確認

遺言書が見つかれば、その中に遺産の内容が記載されている可能性が高いです。遺言の探し方としては、被相続人が遺言書保管制度を利用している場合には法務局に確認を行ったり、公正証書遺言を作成している場合には公証役場において検索してもらう等の方法があります。

金融機関に対する照会

相続人の立場であれば、銀行等の金融機関に照会をかけると、任意に取引履歴の開示等に応じてくれる金融機関がほとんどです。多くの場合は、10年分の取引履歴の請求が可能になりますが、金融機関によっては10年全部の取引履歴の開示を求めると費用が高額になりますから、ケースバイケースで必要な期間に限った収集を行うことになります。

金融機関に対する調査は、支店までは特定している必要はないですが、金融機関名(○○銀行、○○信用金庫等)は特定する必要があります。被相続人と取引のあった具体的な銀行名に心当たりがない場合には、さしあたりメガバンクや被相続人のこれまで住んできた居住地の近くに支店のある金融機関に網羅的に照会を行うことが有効です。

不動産の把握

被相続人の居住地の市町村に対して、名寄せ帳(固定資産課税台帳)の写しの交付請求を行うことによって、被相続人の所有する不動産の内容が把握できます。もっとも、名寄せ帳は市町村単位で編成されますから、複数の市町村に不動産を所有している場合にはそれぞれの市町村に別途名寄せ帳の写しの交付を請求する必要があります。

また、裏技的ですが、不動産の登記情報を網羅的に取得、記録し、横断的に検索できるようなサービスも存在しますので、同サービスを利用することも考えられます。同サービスはあくまで民間業者のサービスですから、確実性の担保されているものではありませんが、財産調査の補助やとっかかりとしては非常に有用です。

その他の資産の調査

金融機関の取引履歴の精査によって、連鎖的に遺産が判明することもあります。たとえば証券会社との間のお金のやりとりがあれば有価証券を保有している可能性がでてきます。また、厳密には遺産ではないですが、具体的相続分を算定する際に問題となる生前贈与等の金銭の授受も金融機関の取引履歴から明らかになることもあります。

特別受益の存在が判明する場合

不動産登記記録や金融機関の取引履歴を調査する中で、生前に相続人の一部に財産が移転していることが判明することがあります。そのような場合には、当該財産を特別受益として、当該財産をその相続人がすでに取得しているものとして具体的な相続分を算定することになる可能性があります。また、遺留分の算定においても、特別受益分については遺留分権利者にとってはすでに取得したものとみなすことになりますし、また、一定の特別受益については遺留分算定の基礎とする財産となりますので、遺留分侵害額の算定に大きな影響を及ぼします。

このように特別受益は、相続案件の帰趨に大きな影響を与えるものです。相続税対策などを理由に生前贈与が行われていることは社会一般にみられる慣例なので、特別受益が問題になるケースは実務上非常に多いと言えますが、特別受益に関する法律関係は複雑になりがちで、精緻な調査・検討を必要とします。

使途不明金の取扱い

金融機関の取引履歴を調査する中で、使途の不明なお金の流出が確認されることがあります。いわゆる使途不明金の問題です。相続開始後に引き出されている場合はいうまでもありませんし、たとえば被相続人が生前に認知症で寝たきりで自分でお金を使うことができないような状況であった場合などにも相続人間で不信の種となり、大きな問題になります。

使途不明金には大きくわけて、二つの段階があります。一つは生前に引き出されている場合、もう一つは死後の相続開始後に引き出されている場合(金融機関が口座を凍結する前に近しい親族等によってお金が引き出されてしまっているケース等)です。それぞれの法律関係について簡単に説明いたします。

まず、生前に、被相続人の意思によらずに第三者によって引き出されている場合には、その時点で被相続人から当該第三者に対する不当利得返還請求権や損害賠償請求権が発生し、当該請求権自体が相続されるという風に整理されます。そして、その後、被相続人に発生した当該権利がそれぞれの相続人に引き継がれることになりますから、相続人から、当該お金を引き出した第三者に対する金銭返還請求事件として捉えることになります。

相続開始後(死後)に引き出された場合には、平成30年改正相続法により新設された民法906条の2に基づいた処理が考えられます。すなわち、民法906条の2では、「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる」とされた上で、「共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない」とされています。つまり、遺産の一部を処分した相続人以外が同意すれば、処分された遺産を存在するものとみなした解決を行うことができます。

いずれにしても、遺産の一部が誰によって処分されたのかについて、綿密な証拠収集が必要になりますし、使途不明金の問題は相続人間の不信間を高める問題となりがちなので、難しい問題となります。早めに証拠収集を行うことで、処分後の財産の散逸を防ぐこともできますので、なるべく早い段階での調査が必要といえるでしょう。


以上、遺産の調査及び関連する論点について紹介をしました。実務においては調査の対象時期が相当以前になってしまうことで調査が困難になったり、相続人の一部の者に使い込まれて回収困難になったりする事例も散見されますので、なるべく早い段階で弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

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