コラム

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葬儀費用は誰が負担すべきか

Q:先日父が亡くなりました。相続人は母と兄、私の三人です。兄と私は長年関係が悪かったのですが、父の死後も、兄は私に父の死を知らせずに、勝手に葬儀の手続を進めていました。今般、遺産分割の話し合いで、兄が葬儀費用を遺産から差し引くと主張してきたのですが、私としては、葬儀費用は勝手に手続を進めた兄が負担すべきではないかと考えており、遺産から差し引くことに納得できません。葬儀費用を兄に負担させることはできないのでしょうか。

A:葬儀費用の負担者については複数の見解があり、裁判例においても判断が分かれているところですが、近時は喪主が負担すべきと判断されることが多いです。少なくとも本設例のように、葬儀に呼ばれていない相続人に葬儀費用を負担させるのは不合理であると考えられます。


1 葬儀費用の負担者で揉める原因

 葬儀は、通常、人が亡くなった直後に関係者が集まって死者を悼む儀式から始まり、これに続いて、遺骸の埋葬又は遺骨の埋蔵、収蔵などが行われます。

 これらの追悼儀式及び埋葬等に要する費用(「葬儀費用」)の負担者については、法律上明確に定められておらず、学説及び判例上も見解が分かれています。

 そのため、被相続人の生前の意思が明確でない場合は、葬儀費用を誰が負担すべきかで争いになることが多々あります。とりわけ、

・共同相続人の一人である葬儀主宰者(喪主)が葬儀費用の全てを支出した場合に、他の相続人に対して葬儀費用の分担を求める場面

・共同相続人の一人が、他の相続人の同意なく、被相続人名義の預貯金から出金して、葬儀費用の支払いに充てた場合に、他の相続人は当該出金分の返還を求める場面

などの場面において問題になります。

 以下では、葬儀費用の負担者に関する複数の考え方を紹介したうえで、実務的にどのように解決すべきかについてお話します。

2 葬儀費用の負担者の考え方

(1)喪主負担説

 葬儀費用は、葬儀主宰者(葬儀を主宰した喪主)が負担すべきであるとする考え方です。

 その理由としては、葬儀費用の一部負担に充てられている香典が喪主に帰属すると解されること、社会的地位に相応した葬儀費用は、労働基準法80条、国家公務員共済組合法63条などにより、何らかの形で保障されているのが通常であることが挙げられています(『新版注釈民法(26)相続(1)』135頁以下)。

(2)相続人負担説

 葬儀費用は、法律上当然に相続人がその法定相続分に従って分割承継し、負担すべきであるとする考え方です。この考え方は、葬儀費用と相続債務(被相続人が生前に負っていた債務)を同様に扱うことを前提にしています。

(3)相続財産負担説

 葬儀費用は、相続財産において負担すべきであるとする考え方です。その理由としては、埋葬が死者の事務執行である限り、死者自身の財産すなわち遺産より支出されるべきであることが挙げられています。なお、相続財産から支出できない場合は、死者に対する扶養義務者が負担すべきであるとされています(近藤英吉『相続法論下』840頁)。

(4)慣習・条理説

 葬儀費用の負担者は、慣習または条理によって定めるとする考え方です。日本では葬式の仕様が多様で、紛争事例も様々である状況を踏まえると、具体的な事例に即して、葬儀費用の負担者を決めるほかないと指摘されています。

3 実務での対応方法

 近時の裁判例は、喪主負担説によるものが多いと思われますが、葬儀の実態や葬儀主宰者が多様である状況においては、一律に決めることは困難です。各見解を踏まえつつ、個別具体的な事実関係を考慮したうえで、誰を負担者とするのが適切であるかを判断する必要があると言えます。

 なお、葬儀費用の負担者の問題は、通常、遺産分割の協議や調停の場などで話し合うことが多いですが、遺産分割「審判」の対象とすることはできません。そのため、遺産分割調停の中で調整を図ることができない場合には、葬儀費用の問題のみを切り離して、別途民事訴訟手続で解決すべきことになります。

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以上

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