コラム

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名義預金は遺産分割の対象になるか。

Q: 亡父は生前、相続人である長男の名義で預金口座を開設し、資産を形成していました。長男は、自分の名義であるから遺産分割の対象にはならないと主張していますが、もともとは亡父が出したお金なのに、遺産にならないのでしょうか。

A: 被相続人以外の名義であったとしても、①預金の原資を出捐したのは誰か、②被相続人が管理・運用していた財産なのか、③利息の受取状況、④被相続人と名義人、預金の管理運用者との関係、⑤名義人となった経緯等を総合考慮し、実質的には被相続人の預貯金であると判断できる場合には、遺産に含めるべきです。


1 名義預金とは

 被相続人が相続開始時点で有していた預貯金は、遺産として遺産分割の対象になります。

 預貯金は、被相続人名義の口座として存在することが多いですが、被相続人が親族や第三者の名義で口座を開設し、当該口座に自己資金を貯蓄しているケースもあります。

 このように実質的には被相続人が所有する預貯金であるが、形式的には被相続人以外の名義になっている預貯金は、「名義預金」と呼ばれており、当該預金が遺産に含まれるか否かで争いになることがあります。


2 名義預金の判断要素

 名義預金であるか否か(被相続人の遺産なのか、あるいは名義人たる相続人または第三者の預貯金なのか)について、相続人間で争いになった場合には、

 ①預金の原資を出捐したのは誰か

 ②被相続人が管理・運用していた財産なのか

 ③利息の受取状況

 ④被相続人と名義人、預金の管理運用者との関係③

 ⑤名義人となった経緯

といった諸事情を総合考慮して判断することになると思われます。

 例えば、被相続人が預金の原資を出捐し、その後の通帳や印鑑等も被相続人が管理していた場合には、名義預金である(遺産に帰属する)と認定される可能性が高いです。

 他方で、被相続人が預金の原資を出捐したものの、その後、通帳等の管理を名義人が行うようになり、利息等も名義人が受け取るようになっていた場合には、被相続人から名義人に対して当該預金の贈与がなされた(遺産に帰属しない)ということも考えられます。なお、当該名義人が相続人である場合には、当該預金の贈与分が特別受益として遺産に持ち戻される可能性があります(特別受益の解説についてはこちらを参照)。


3 名義預金に関する紛争解決の手続

(1)遺産分割協議・調停

 名義預金であるか否かについて相続人間で争いになった場合、まずは遺産分割協議や遺産分割調停の中で話し合うことになります。

名義預金であることを前提に遺産分割の対象にする場合には、具体的な分割方法等を決めることが考えられます。これに対し、名義預金ではなく名義人たる相続人への贈与であることを前提にするならば、当該相続人が受けた特別受益として扱い、具体的な相続分の算定の際に考慮することが考えられます。

 他方で、当該預金を名義人固有の財産であると認めるのであれば、遺産分割の対象から除外することを確認することになります。

(2)遺産確認を求める訴え

 以上のような調停等を経てもなお、当該預金が被相続人の遺産であるか否かについて協議が整わない場合には、最終的には遺産確認を求める訴え(遺産確認訴訟)を提起して解決を図るしかありません。

 遺産確認訴訟においては、当該預金が遺産に帰属すると主張する側が、そのことを証拠により立証する必要があります。当該立証においては、預金の原資を出捐したのが被相続人であることや、その後の管理運用を被相続人が行ってきたことを示す客観的な証拠が重要になることが多いです。

 互いに主張立証を尽くしたうえで、判決又は和解によって、当該預金が遺産であることの確認がなされた場合には、当該預金を含む遺産について遺産分割協議を再開することになります。これに対し、当該預金が遺産でないことが確認された場合には、これを遺産から除外したうえで、遺産分割協議を再開することになります。

 名義預金か否かは事案ごとに判断されるものです。名義預金の存在が疑われる場合には、弁護士に相談することをお勧めします。

<法律相談はこちらまで>

以上

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