具体的な相続分の算定(特別受益・寄与分)

具体的な相続分の算定(特別受益・寄与分)

特別受益と寄与分

特別受益と寄与分は、各相続人の具体的相続分を計算するにあたって、共同相続人間の公平を図るために設けられた民法上の制度です。

特別受益は、被相続人から生前贈与等を受けていた場合に、その受益分を相続財産に加算します。これに対し、寄与分は、相続人が被相続人の財産形成に貢献していた場合に、その寄与分を相続財産から控除します。

特別受益や寄与分が認められるか否かで、具体的相続分の金額が大きく変わることもあるため、これらの制度を簡単にでも知っておくことが重要です。

なお、令和3年4月28日公布の民法改正により、相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(または被相続人が遺言により指定した相続分)によるものとされましたので、その場合は特別受益や寄与分を考慮することができなくなることに留意が必要です。ただし、①10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したとき、または②10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅してから6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求したときは、具体的相続分により分割することができるとされています。

以下では、特別受益と寄与分の概要と具体例について説明しますが、実際の遺産分割協議においては、難しい論点を含むケースも多いため、早めに弁護士にご相談することをお勧めします。

特別受益について

特別受益とはなにか

共同相続人の中に、被相続人から生前に贈与を受けたり、遺贈を受けた者がいる場合に、その相続人が他の相続人と同じ相続分の相続を受けると不公平が生じます。そこで、この不公平を解消するための民法上の制度が特別受益の制度です。生前贈与や遺贈により受けた利益のことを「特別受益」と言います。

特別受益の制度では、まず被相続人からの生前贈与を相続財産額に加算し、各共同相続人の相続分(一応の相続分)を確定します。その上で、特別受益を受けた相続人について、その特別受益額を一応の相続分から控除し、残額をもって当該相続人の具体的相続分とします。

特別受益がある場合の具体的相続分の計算例

(具体例)Aが死亡し、その相続人は妻Bと、長男C、次男Dであるとします。
Aの遺産総額は1億9000万円で、Aは生前に1000万円をCに贈与している場合、具体的相続分はどのように計算されるのでしょうか。
①まず、生前贈与分を相続財産に加算します。そうすると、みなし相続財産の額は、1億9000万円+1000万円の2億円です。

②この2億円を法定相続分に従って各共同相続人に割り付けます。
B:2億円×1/2=1億円
C:2億円×1/4=5000万円
D:2億円×1/4=5000万円

③Cについては特別受益(贈与)を控除します。
C:5000万円-1000万円(贈与分)=4000万円

④その結果、遺産1億9000万円は、次のような割合で、各共同相続人間に配分されることになります。この割合を具体的相続分と言います。
B:C:D=1億円:4000万円:5000万円=10:4:5

特別受益の具体例

遺贈

遺贈とは、被相続人が遺言によって他人(相続人またはそれ以外の第三者)に自己の財産の全部または一部を無償で与える行為のことをいいます。

遺贈は、その目的に関係なくすべて特別受益になります(民法903条)。なお、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言があった場合も、遺贈と同様に扱われます。

生前贈与

民法上、婚姻・養子縁組のための贈与と、生計の資本としての贈与は特別受益になると定められています。

婚姻・養子縁組のための贈与

婚姻または養子縁組の際の持参金や支度金は、特別受益になるとされています。

これに対して、結納金や挙式費用については、一般的には特別受益にならないと考えられています。親が支出するこれらの費用は、婚姻・縁組当事者に対する親からの贈与というよりは、結納の相手方の親に対する贈与、挙式に対して親が自らのために費やした契約費用とみるのが相当であるからです。

大学等の学費・入学金

高校卒業後の教育(専門学校、大学、留学、留学に準ずる海外旅行の費用等)の学費や入学金は、将来の生活の基礎となることは明らかであるから、特別受益に該当するという見解もあります。

しかし、それが被相続人の資産状況や社会的地位に照らして、「子に対する扶養」の範囲内にあたるか否かを慎重に検討し、扶養の範囲にあたる場合は特別受益とは認められないと考えられます。

生命保険金・死亡退職金

共同相続人の一人が受取人とされる生命保険金は、原則として特別受益にはなりません。

しかし、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が、民法903条の趣旨に照らし到底是認できないほど著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて取り扱うべきと解されています。

また、死亡退職金等の遺族給付についても、特別受益には該当しませんが、生命保険金と同様に、例外的に特別受益に準じて取り扱うべき場合があるとされています。

借地権の譲渡・設定

被相続人が借地権を有していて、それを生前に相続人の一人に対して譲渡した場合、その相続人が借地権価格相当の対価を支払った場合を除き、特別受益にあたると考えられます。

また、相続人が、被相続人の土地上に建物を建築する際に、被相続人の土地に借地権を設定した場合も、借地権相当額の特別受益が認められると解されています。ただし、借地権の設定に対する対価として権利金を支払っている場合は、特別受益に該当しないと考えられます。

特別受益が考慮されないケース

持戻し免除の意思表示

被相続人は特別受益者の受益分の持戻しを免除することができます。被相続人による免除の意思表示がある場合には、上記計算例で説明したような持戻しの計算をする必要がありません。被相続人が、特別受益分を遺産に持ち戻す必要がないとの意思を示すことを「持戻し免除の意思表示」といいます。

持戻し免除の意思表示については、特別の方式はなく、明示であっても黙示であっても行うことができます。遺言によって行う必要もないと解されています。

配偶者に対する遺贈・贈与の特例

婚姻費用が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し、その居住の用に供する建物またはその敷地(配偶者居住権を含みます)について遺贈または贈与をしたときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。例えば、婚姻して30年になる夫婦AとBが、Aの所有する建物に住んでいたとします。Aがその建物を、Aの死亡を原因としてBに贈与していた場合、Aは持戻し免除の意思表示をしたものと推定されます。

このような特例が認められたのは、通常、AはBの老後の生活保障を意図して贈与すると考えられ、持戻し計算の対象とする意思を有していないと推定できますし、Bの生活保障をより厚くすることが望ましいからです。

寄与分について

寄与分とはなにか

共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした者がいるときに、この特別の寄与を具体的相続分の算定において考慮し、この者に対して特別に与えられる相続財産への持分のことを「寄与分」といいます。

寄与分が認められる場合、相続財産からその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなして相続分を算定し、その算定された相続分に寄与分を加えた額をその者の相続分とします。このように寄与分の制度は、被相続人の財産形成に貢献をした者に、相続財産の中から相当額の財産を取得させることにより、共同相続人間の公平を図るための制度です。

寄与の態様・要件

寄与行為の代表例

寄与行為の代表例として、以下の5つの態様が挙げられます。

労務提供型

被相続人の事業に関して労務を提供した場合です。家業である農業、林業、漁業のほか、各種の製造業、加工業、小売業、医師、公認会計士、税理士等に従事することによって寄与が認められる場合があります。

財産出資型

被相続人の事業に関して財産上の給付をした場合、または被相続人に対し財産上の利益を給付した場合です。例えば、息子が父親に対し、父親名義の家屋のリフォーム工事の資金として金銭を贈与する場合などです。

療養看護型

相続人が、病気療養中の被相続人の療養看護に従事した場合です。本来は被相続人が自らの費用で看護人を雇わなければならなかったところを、相続人が療養看護したため、被相続人が介護費用等の出費を免れたことで、相続財産が維持または増加した場合に限られます。

扶養型

相続人が、被相続人を扶養し、被相続人が出費を免れたためにその財産が維持された場合です。例えば、父が母に先立たれてから、次男の自宅にその家族と同居し、次男が父の生活費を援助したり、次男の妻子が父の日常の世話をしていた場合などです。

財産管理型

被相続人の財産を管理することによって財産の維持形成に寄与した場合です。例えば、息子が、父の所有する賃貸マンションの管理(建物の修繕、賃貸料の回収など)を父に代わって行うとともに、父の不動産の固定資産税を長年にわたり支払っていたという場合などです。

寄与分が認められるための要件

寄与分が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

「相続人自ら」の寄与があったこと

寄与分として評価されるのは「相続人の寄与」についてのみです。

したがって、相続人以外の者が被相続人の財産の維持等に貢献したとしても、寄与分としては評価されません。ただし、相続人以外の者がした貢献を、相続人自身の貢献とみなすことができる場合は、寄与分として評価する余地があります。例えば、相続人の長男が、相続人と共に被相続人の事業に無報酬で従事し、財産の維持形成に貢献をしたような場合です。

なお、2018年の相続法改正により、相続人以外の被相続人の親族の貢献に関しては、「特別寄与料」という制度が設けられました。当該親族は、相続が開始した後、相続人に対し、「特別寄与料」という金銭の支払いを請求することができます。

当該寄与行為が「特別の寄与」であること

被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献である必要があります。例えば、夫婦には相互に協力扶助する義務がありますので、夫の就労していた期間に、妻がパートで収入を得て生活費を補っていたというだけでは、特別の寄与とは言い難いと評価される可能性があります。

当該寄与行為によって被相続人の遺産が維持または増加したこと

寄与分として考慮されるためには、被相続人の財産の維持または増加についての寄与でなければなりません。例えば、単なる精神的な支援だけなど、被相続人の財産の維持または増加と無関係な寄与は、寄与分の対象とはなりません。また、被相続人の療養看護や身辺の世話に対して特別の貢献をしたからといって、それが被相続人の財産の維持または増加につながっていなければ、寄与分の対象になりません。

寄与分がある場合の具体的相続分の計算例

(具体例)Aが死亡し、その相続人は妻Bと、長男C、次男Dであるとします。
Aの遺産総額は1億円で、Bには2000万円の寄与分が認められる場合、具体的相続分はどのように計算されるのでしょうか。

①まず、相続財産から寄与分を控除します。そうすると、みなし相続財産の額は、1億円-2000万円の8000万円です。

②この8000万円を法定相続分に従って各共同相続人に割り付けます。
B:8000万円×1/2=4000万円
C:8000円×1/4=2000万円
D:8000円×1/4=2000万円

③Bについては寄与分を加算します。
B:4000万円+2000万円(寄与分)=6000万円

④その結果、遺産1億円は、次のような割合で、各共同相続人間に配分されることになります。
B:C:D=6000万円:2000万円:2000万円=3:1:1

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