コラム

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死亡保険金は遺産分割等で考慮されるか。

Q: 父は生前、父自身を被保険者とする生命保険に加入し、長年同居して介護等を行ってくれた兄を保険金受取人に指定していました。父の死後、兄が死亡保険金を受け取りましたが、これは具体的な相続分の算定において特別受益として考慮されないのでしょうか。また、兄が相続放棄をした場合、死亡保険金はどうなるのでしょうか。

A: 共同相続人の一人が死亡保険金の受取人として指定されている場合、特段の事情がない限り、当該保険金の取得を特別受益として考慮することはできません。また、兄が相続放棄した場合でも、保険金請求権の帰属には影響しないため、兄は死亡保険金を受け取ることができます。


1 死亡保険金は遺産ではない

 被相続人が生命保険に加入する際、被相続人を被保険者、共同相続人の一人を保険金受取人に指定していることがあります。この場合、死亡保険金請求権は、受取人の固有の権利であり、遺産分割の対象にはならないとされています(これに対し、税務上は、相続税の課税対象になります)。

 また、死亡保険金請求権は、原則として、民法903条1項に規定する「遺贈」又は「贈与」に係る財産には当たらず、特別受益として考慮されません(特別受益の詳細についてはこちらもご参照ください)。つまり、受取人として指定されていた共同相続人の一人が死亡保険金を取得したとしても、遺産分割には何ら影響しないのが原則です。

 ただし、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が、民法903条(特別受益)の規定に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき「特段の事情」がある場合には、例外的に、特別受益に準じて遺産の持戻しの対象になると解されています。

 この「特段の事情」の有無は個別具体的な事案に応じて判断すべきものですが、①保険金の額、②この額の遺産総額に対する比率、③被相続人との同居の有無、④被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきとされています。

2 生前に保険金受取人を変更していた場合

 被相続人が生前に、受取人を相続人の一部の者から他の者に変更していた場合、死亡保険金は、死亡時の受取人の固有の権利となり、変更前の受取人は何ら権利を有しません。

 ただし、前述した「特段の事情」がある場合には、特別受益に準じて遺産の持戻しの対象となると解されています。

 なお、遺言によって受取人を変更していた場合の遺留分の算定においても同様に、「特段の事情」がある場合に限り、保険金取得額を遺産に持ち戻すことになります。


3 保険金受取人が相続放棄をした場合

(1)具体的な相続人を受取人に指定していた場合

 相続放棄とは、被相続人の資産や負債等を一切承継しないことを意味します(相続放棄の詳細についてはこちらもご参照ください)。保険金受取人が相続放棄をした場合、死亡保険金請求権の帰属はどうなるのでしょうか。

 前述のように、死亡保険金請求権は、受取人の固有の権利であり、被相続人の遺産ではありません。

 したがって、受取人として指定されていた特定の者が相続放棄をしたとしても、死亡保険金請求権の帰属には影響せず、当該受取人が死亡保険金を取得することができると考えられます。

(2)単に「相続人」として指定していた場合

 保険契約において保険金受取人を単に抽象的に「相続人」と指定し、具体的な個人名や続柄等を定めないケースがあります。この場合、相続放棄をすれば、初めから相続人の地位を有しないことになり、死亡保険金を受け取ることもできないのではないかとも思われます。

 しかし、死亡保険金は、保険契約に基づいて、保険金請求権発生時における契約者の相続人たるべき個人に属し、遺産を構成しません。したがって、この場合に相続放棄をしたとしても、死亡保険金を受け取ることができると考えられます。


(3)被相続人自身を受取人に指定していた場合

 被相続人自身を受取人に指定するケースもあります。

 この場合は、「相続人」と指定していた場合とは異なり、保険金請求権は一旦被相続人に帰属し、遺産として相続人に承継されると解することもでき、相続放棄をした場合は、保険金請求権を承継しないという考え方も存在します。

4 まとめ

 以上をまとめると、相続時における死亡保険金の法的な取扱いは、

① 死亡保険金は、保険金受取人の固有の権利である。

② 共同相続人の一人が死亡保険金の受取人として指定されている場合は、特別受益として考慮されないのが原則である。ただし、保険金受取人である相続人と他の相続人との間の不公平が著しいものであると評価すべき「特段の事情」がある場合には、例外的に特別受益として考慮すべきことがある。

③ 受取人として指定されていた者が相続放棄をした場合でも、保険金請求権の帰属には影響しない。

 ということになります。

 死亡保険金は、税務上は相続税の課税対象になるため、遺産分割の対象にもなると思い込んでいる方も少なくありません。

 死亡保険金を含む相続問題を抱えている方は、お気軽に弊所までご相談ください。

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