遺留分の請求をしたい・受けた

遺留分の請求をしたい・受けた

遺留分とはなにか

私有財産制のもとにおいては、自分の財産は自分の好きなように処分することが出来るのが原則ですから、遺産を誰にどのくらい承継させるかについても自由に決めることができます。たとえば、家族がいる人でも、家族以外の人に全財産を承継させる旨の遺言も有効です。

他方で、本人の財産の承継を完全に自由に認めると、相続人の生活保障や相続に対する期待が害されるおそれがあります。これらのバランスを図る趣旨で、一定の範囲の相続人に一定割合の遺産の確保を保障する制度が遺留分制度です。生前贈与や遺贈によって遺留分を侵害している場合は、一定の範囲の法定相続人には遺留分権が認められ、遺留分相当額の金銭請求権を取得することになります。

遺留分に関する法改正

平成30年の相続法改正以前の旧法下においては、遺留分減殺(げんさい)請求権と呼ばれ、遺留分は金銭請求権ではなくて、遺留分を侵害する限度において遺贈又は贈与の効力を一部又は全部無効にさせるものでした。その結果、遺留分減殺請求権の行使によって、目的財産が受遺者又は受贈者との共有になってしまい、紛争も複雑なものになりがちでした。平成30年の改正相続法においては、遺留分に関する権利行使により生じる権利を金銭債権化することによって、紛争の複雑化の回避が図られ、遺留分侵害額請求として、整理されることになりました。

遺留分の計算の基本

概念の整理

遺留分侵害額の算定方法はやや複雑なので、概念を整理します。

  • 遺留分制度
    ・・・兄弟姉妹以外の相続人について、その生活保障を図るなどの観点から、被相続人の意思にかかわらず被相続人の財産から最低限の取り分を確保する制度
  • 遺留分
    ・・・その相続人の最低限の取り分を示す概念
  • 遺留分の具体的な金額
    ・・・「遺留分を算定するための財産の価額」に遺留分割合を乗じて、さらに遺留分権利者の法定相続分を乗じて求めることのできる金額
  • 遺留分侵害額
    ・・・遺留分権利者が被相続人の財産(遺産に限らず、贈与等の目的財産を含む。)から遺留分に相当する財産を受け取ることができない場合に、その不足分を算定する概念。

算定方法:遺留分の額から、
①遺留分権利者が生前贈与等を受けている場合には、その価額を控除し、
また、
②遺産分割の対象財産がある場合には、遺留分権利者が遺産分割において取得するべき財産の価額を控除し、
さらに、
③相続債務がある場合には、遺留分権利者が相続によって負担する債務の額を加算することにより求める。

遺留分の額は、遺留分権利者が直系尊属のみの場合は3分の1×法定相続分、それ以外の場合においては2分の1×法定相続分によって算定されます。その上で、相続人や第三者に対して生前贈与があった場合には、当該財産のうち一定の範囲の者が遺留分を算定するための財産の価額に汲み戻されることになります。ごく簡単に整理すると以下のような計算式になります。

遺留分を求める計算式

遺留分を算定するための財産の価額=(相続開始時における被相続人の積極財産の額)+(被相続人に対する贈与の額(原則10年以内))+(第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内))-(被相続人の債務の額)

遺留分=(遺留分を算定するための財産の価額)×2分の1(直系尊属のみが相続人である場合は3分の1)×法定相続分

遺留分侵害額=(遺留分)-(遺留分権利者の特別受益の額)-(遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額)+(遺留分権利者が相続によって負担する債務の額)

遺留分と行使期間

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しないときは、時効により消滅します。また、相続開始時から10年を経過すれば、遺留分権利者の認識等を問わずに、遺留分侵害額の請求権は消滅します。相続開始及び遺留分侵害を知ったときから1年間という基準は、実際上はとても短いものですから、遺留分侵害のおそれが判明した場合にはただちに専門家へ相談することをおすすめします。

なお、相続法改正によって、遺留分侵害額の請求権は金銭請求権と整理されましたから、上記に期間内に遺留分侵害額の請求権を行使したとしても、その後、別途、5年間の消滅時効に服することになります。

遺留分請求の手続の流れ

遺留分侵害額の請求は必ずしも裁判手続きによらずとも行使することができますが、実務上は、行使期間の制限の問題もあるので、内容証明郵便等、のちに期間内に権利行使を行ったことを証明できる方法によって行使することになります。相手方が請求に任意に応じない場合は、法的手続きにより解決することになりますが、遺留分に関する裁判手続きは調停前置主義がとられていますので、まずは調停の申立てを行い、調停で解決が難しければ訴訟に移行するという流れになります。

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