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誰が住んでいるかわからない場合の建物明渡請求の方法


Q:Aさんという方に建物を貸していましたが、半年ほど前に亡くなりました。Aさんは一人暮らしでしたし、亡くなったあと相続人の方から家賃の支払いもありませんので、建物は返してもらおうと思い、建物を調べたところ、Aさんの友人を名乗るBという者や、その他者複数名が当該建物を出入りしていることがわかりました。
私はBさんに任意で明渡を求めましたが、「Aさんとの約束で住まわせてもらっている。ぜったいに出て行かない」「ほかにも人が住んでいて、私にだけ明渡を求めるのはおかしい」等道理の通らないことを言ってでていきません。
話し合いでは埒が明かないので、裁判で強制的に出て行ってもらいたいのですが、Bさんはややこしそうな方ですし、Bさん以外にも不特定多数の者が住み着いてそうです。このような場合にどのように手続きを進めていけばよいのでしょうか。

 


A:債務者不特定の占有移転禁止の仮処分を行います。


 本国では自力執行が禁止されていますから、なんの権限もなく建物を占有する者から建物を取り返す場合にも、裁判手続きによる必要があります。
 建物の明渡を求めるための裁判手続きとしては、おおまかにいうと、①訴訟で勝訴判決を取得する、②勝訴判決をもとに強制執行手続きをする、という二つの手続きが必要となります。

 さて、ご相談のケースでは、任意に立ち退いてもらえない以上、訴訟が必要となりますが、誰を宛名に提訴すればよいでしょうか。

 少なくともBさんは相手方になりそうですが、建物にはBさん以外にも不法占有者が住み着いていそうです。Bさん以外の者がBさんの家族だったりして独立の占有が認められなかった場合には、Bさんを宛名に訴訟をすれば足りることになりますが、本件ではどうもそのようなケースではなさそうです。
また、Bさんは、本人の弁によると亡くなった友人の家に勝手に住んで、かつ、なんの占有権限もないのに大家さんから退去を求められてもこれに従わないような人物なのですから、そうとうややこしい相手方であることが予想できます。

 そうすると、Bさん相手に訴訟をしても、いざ強制執行をする段階になって、Bさん以外の人が独立して占有していることが発覚したり、Bさんがほかの人に占有を移してしまっていた場合には、Bさん相手の訴訟の勝訴判決に基づいて、強制執行をする進めることができません。

 こうした場合に、占有者を訴訟前に固定しておいて、のちの強制執行に備えるための手続きとして、占有移転禁止の仮処分があります。
占有移転禁止の仮処分をしておくと、仮処分後に占有を取得した第三者に対しても、仮処分の相手方に対する勝訴判決に基づいて強制執行をすることができます。

 そして、この占有移転禁止の仮処分は、一定の場合には、債務者を特定しないで発令を求めることができますから(民事保全法25条の2)、本件では、これを利用することになります。

 占有移転禁止仮処分の発令後、仮処分の効力発生のためには、執行官に現地に行ってもらって債務者の占有を認定してもらい、債務者が占有の移転を禁止されている旨の公示を行ってもらう必要があります(公示書を建物内のわかりやすい場所に張り付けるのが通例です)。発令時点で債務者不特定の場合は、保全執行の段階で、執行官により占有者を特定し、その者を債務者として仮処分を執行することになります(発令段階では債務者不特定でもよいのですが、保全執行の段階で債務者を特定しなければなりません(民事保全法54条の2))。

 占有移転禁止の仮処分が公示されたあとは、債務者に対する勝訴判決をもって、債務者から占有を移転された第三者及び仮処分について知って占有した占有者に対して、強制執行をすることができます。仮処分について知っていたかどうかについては推定規定がありますから、ほとんどの場合は知って占有したものと扱われます(民事保全法62条2項)。


 債務者不特定の占有移転禁止の仮処分がなされた例として、たとえば、2019年に京都大学が学生寮の吉田寮占有者に対して、債務者不特定の占有移転禁止の仮処分を申し立てたことが報道されました。
 京都大学は寮生らに対して建物明渡訴訟を提起するのに先立ち、京都大学は寮生を相手方とする占有移転禁止の仮処分を申し立てましたが、保全執行の段階になって現地に赴いてみると、寮生でない者が住み着いていることが判明しました。
 私も京都大学の卒業生であるから知っているのですが、吉田寮には、京都大学の学生ではない者(寮生ではない者)が多数居住しています。

 京都大学としては、そのまま寮生に対して建物明渡請求訴訟を行っても、寮生以外の者に対して建物明渡の強制執行ができなくなってしまいます。他方で、寮生以外の占有者は事前に特定しがたいです。そこで、京都大学は、債務者不特定の占有移転禁止の仮処分の申し立てに至ったわけです。


 建物明渡請求は、占有認定に関して難しい面も多く、スムーズな明渡を実現するためには保全処分も検討しなければならないケースも多々あります。ややこしそうな方を相手方とする建物明渡を検討される際には、早めの弁護士への相談をおすすめします。


(弁護士 池本直記)