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手付け放棄による解除

Q:不動産会社との間で、自分の居住用の建物として、土地とその上の建物を購入するという契約を締結しました。しかし、契約後になってから、ほかに私の希望条件にぴったりの建物が見つかったため、契約をやめたいと考えるようになりました。
土地建物の価格は合わせて4000万円、契約の際には、100万円の手付金を交付しておりますが、手付け解除の期限が契約日から2週間と定められており、2週間は過ぎてしまっています。契約書においては、買主都合による解約の場合は、違約金として20%が発生すると書かれています。
契約を取りやめるためには、違約金として売買代金の20%相当の800万円を支払わなくてはならないのでしょうか。

 


A:手付け解除が可能である可能性が高いです。

 

 不動産売買においては、手付金と呼ばれるお金のやりとりがなされることが多いです。
 手付けとは、定義的には、「売買や請負などの契約締結の際に、買主や注文主が相手方に交付する有価物」(法律学小辞典第5版)とされていますが、一般には、代金の内金として金銭が交付されることがほとんどです。

 さて、手付けには、民法上、特別の効力が認められています。すなわち、民法557条第1項は、「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」と定め、買主の側かみると、手付けの放棄によって契約を自由に解除できる旨を定めています。
 手付けを放棄することによる解約の場合は、違約金は発生しません。

 そして、手付け解除ができる期限は、「相手方が契約の履行に着手」するまでの間です。「履行に着手」の意義は、「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」と考えられていますから、たとえば建物の引渡期日前なのであれば、通常は手付け放棄による解除が許容されます。

 もっとも、民法557条1項は、任意規定といって、当事者が法律の規定と異なる合意をすることも自由です。ですから、標記の事例のように、当事者が、手付け解除ができる期限について、「契約日から2週間」と合意していた場合には、民法の規定よりも当事者の合意が優先され、手付け解除はできない、という結論になります。

 それでは標記の事例においては、手付け放棄による解除はできないように思います。
この点、結論が二転三転しますが、本件においては、不動産の売主は宅地建物取引業者にあたるので、宅地建物取引業法の適用があります。

 宅地建物取引業法第39条2項は、「宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであつても、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」と定め、同条3項は、「前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。」としています。
 すなわち、宅地建物取引業者が売主となる宅地または建物の売買契約においては、当事者の合意よりも法律の規定が優先する関係にあります。


 そこで、標記の事例においては、買主の側で違約金の支払いをすることなく、手付け放棄による解約が認められる可能性が高いということになるわけです。

(弁護士 池本直記)