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会計帳簿等の閲覧謄写請求を受けた場合の対応

Q:当社の株主から会計帳簿閲覧請求を受けました。請求の理由は、当社の取締役が会社の財産を毀損するなどの違法行為を行っている疑いがあるというものです。会計帳簿閲覧請求に応じる必要はあるのでしょうか。

A:株主の請求の理由が明示されているか、拒絶事由が存在しないか、請求されている資料が会計帳簿等に該当するか、などの点を検討したうえで、問題がなければ請求に応じる必要があります。

【解説】

1 会計帳簿閲覧請求について
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、または発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿またはこれに関する資料(以下「会計帳簿等」といいます。)の閲覧または謄写を請求することができます(会社法4331項。電子データとして作成されている場合も同様です。)。
この会計帳簿等閲覧請求制度は、株主が会社の業務・財産状況を調査し、取締役の業務執行を監督是正するために設けられたものです。

2 請求を拒否できる場合
(1)請求の理由の明示が不十分である場合
株主が会計帳簿等の閲覧謄写を請求する際は、請求の理由を明らかにしなければなりません。その趣旨は、会社が理由と関連性のある会計帳簿等の範囲を知り、また、営業秘密の漏洩、会計情報の不当利用等の危険が大きい一般的調査が行われることを防止すること等にあります。
したがって、株主は、会社がその理由を見て関連性のある会計帳簿等を特定でき、後述する拒絶事由の存否を判断しうる程度に具体的な理由を明示する必要があると解されています。例えば、「株主の権利の確保または行使に関し調査をするため」「会計の不正を調査するため」という程度では、理由の記載として不十分であるとされています。
会社としては、株主から閲覧謄写請求を受けた場合は、まず請求の理由が具体的に明示されているかを確認し、それが不十分であれば、請求を拒絶することができます(もっとも、この場合でも株主は理由を補充することができます。)。

では、株主は、請求の理由を基礎づける事実の存在まで立証する必要はあるのでしょうか。例えば、設例の場合、株主は「取締役が違法行為を行っていること」を立証する必要があるのか、という問題ですが、結論としては不要と解されています。そもそも閲覧謄写請求権は、会社の違法行為差止請求等の権利を行使する前提として、会社経理の状況を知るために設けられた制度ですので、閲覧謄写請求のために違法行為の立証を要すると解するのは本末転倒であり、制度の立法趣旨に合致しないからです。
したがって、会社としては、請求の理由の基礎となる事実の立証が不十分であることを理由に、株主の閲覧謄写請求を拒絶することは許されません。

(2)法定の拒絶事由
会社法では、会社が請求を拒絶できる場合について、五つの事由が定められています(会社法4332項各号)。本稿ではその一部を解説します。

 1号は、「閲覧謄写請求を行う株主が、その権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき」です。
例えば、株主が、株主の立場とは全く関係なく、売買契約上の権利や労働契約上の権利の行使のために請求する場合です。

 2号は、「閲覧謄写請求を行う株主が、会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき」です。
これについては、客観的に業務遂行や共同利益を害することが認められれば、株主に加害の意図がなくてもこれに該当すると解されています。

 3号は、「閲覧謄写請求を行う株主が、会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、またはこれに従事するものであるとき」です。
会社側は、客観的に競業関係が存在することを立証すれば請求を拒絶することができ、株主の主観的意図は問わないと解されています。

4 対象となる会計帳簿等の範囲
閲覧謄写請求の対象となるのは、「会計帳簿またはこれに関する資料」です。例えば、総勘定元帳や手形小切手帳、現金出納帳、売掛金に関する売上明細補助簿などがこれに該当します。
これに対し、法人税確定申告書及びその明細表や、契約書、普通預金通帳、請求書や領収書の控えなどの資料については、会社の会計処理において直接会計帳簿作成の資料となるものではないため、「会計帳簿またはこれに関する資料」には該当しないと解されています。

5 会社としての対応
株主から会計帳簿等の閲覧謄写請求を受けた場合、会社としては、①まず請求の理由が具体的に明示されているか、それにより請求の対象となる会計帳簿等を特定することができるか、②法定の拒絶事由に該当しないか否か、③対象となる資料が会計帳簿等に該当するか否か、といった点を検討したうえで、問題がなければ閲覧謄写に応じる必要があります。
①から③の検討に際しては、難しい法的解釈が必要となることもございますので、早い段階で一度弁護士に相談することをお勧めします。

(弁護士 阪口 亮)

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