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アフターコロナにおける契約実務対応

Q:新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今後契約を締結する際に留意すべきことは何でしょうか。

 

A:感染拡大の影響により、約定どおりに契約を履行できない事態が生じ得るため、今後取引を行う際には、このような事態を想定して契約条項を見直す必要があります。

【解説】

1 新型コロナウイルスによる契約実務への影響
新型コロナウイルスは全世界に蔓延し、人々の生活や企業の経済活動に深刻な影響を与えています。このような状況は誰もが予想していなかったことであり、契約実務においても、契約締結当時の想定と異なる事態が生じるケースは非常に多いです。
本記事では、代表的な契約類型である売買契約を例として、新型コロナウイルスが契約実務に与える影響を解説した上で、いわゆる「アフターコロナ」において企業が対応すべき点について紹介します。

① 目的物の引渡しができない場合
新型コロナウイルスの影響により、売主が製品を期限までに引き渡すことができなくなる事態が想定されます。この場合、買主としては、製品の供給義務を負う売主に対して、債務不履行に基づく損害賠償責任を追及するほか、契約解除を行うことが考えられます。

債務不履行責任を追及する場面では、民法上、債務者(売主)の帰責事由が要求されるため、新型コロナウイルスの影響による不履行について売主の帰責事由が認められるか否かが問題となります。
また、契約上は、債務者に原則として責任を負わせつつ、「不可抗力」の場合に限り免責を認める旨の条項を入れているケースが多く、その場合には帰責事由ではなく「不可抗力」該当性が問題となります(なお、新型コロナウイルスの影響により代金の支払いができなくなってしまった場合の債務不履行責任については、民法上、不可抗力を理由とする免責は認められていません。)。
いずれの場合も、売主が債務不履行責任を免れるか否かは、新型コロナウイルスの被害規模が相当大きいことや、債務者の被害の直接性、被害と不履行との関係、不履行の回避措置の十分性、代替措置の有無等の諸事情を勘案した上で、個別に判断されることになると考えられます。

一方、契約を解除する場面では、202041日施行の民法改正に留意が必要です。改正前の民法が適用される場合には、債務不履行責任と同様に売主の帰責事由が必要ですが、現行民法が適用される場合には解除に帰責事由は求められません。

② 買主が目的物の受領を拒絶する場合
新型コロナウイルスの影響により、買主が製品を受領できなくなる事態も想定されます。例えば、イベントに必要な資材を購入したが、新型コロナウイルスの影響によりイベント自体が中止となり、当該資材が不要となったため、買主がその受領を拒否した場合などです。

債権者が目的物の受領を拒絶した場合などを「受領遅滞」といいますが、この場合、債権者は、受領遅滞による増加費用(例えば、目的物の保管のための倉庫費用など)を負担し、受領遅滞中の履行不能(例えば、目的物が滅失した場合など)は債権者の帰責事由に基づくものとみなされる等の不利益を負うことになります。

2 アフターコロナにおける対応
① 契約条項の見直し
以上のように、今後も新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化すると、約定どおりに契約が履行されない事態が生じ得ます。そのため、今後のさらなる感染拡大や同種の感染症拡大等の事態に備え、契約条項の見直しを検討することが必要です。

例えば、製品を供給する売主側としては、自社の従業員の間でクラスターが発生した場合や、取引先から必要な製品の供給を受けられなくなった場合などを想定し、一定の事由が発生した場合に納期や物の供給数量を変更できる旨の規定を設けることが考えられます。
また、契約における「不可抗力」の例示事由として、「新型コロナウイルス等の指定感染症」といった文言を追加するなどし、債務不履行責任を負う場合を限定することも考えられます。
実際に契約条項を見直す際には、具体的な契約に応じて適切な内容に修正等する必要がありますので、一度弁護士に相談することをお勧めします。

② 不測の事態に備えた検討・計画  
契約条項を見直すためには、その前提として、今回のような緊急事態時において生じる事業リスクを洗い出し、対応方針等を策定した上で、これを活用してマネジメント活動を継続的に行うことが重要です(企業が緊急事態に遭遇した場合において、事業損害を最小限にとどめつつ、事業の継続又は早期復旧を可能とするための方法、手段等を取り決める計画のことを「BCP」といい、これを活用したマネジメント活動を「BCM」といいます。)。
このような対応を行っていたか否かは、緊急事態時に債務不履行が生じた場合の帰責事由や不可抗力の判断にも影響する可能性がありますので、この点も念頭に置いた上で、BCPの策定等の対応を積極的に行っておくべきでしょう。

(弁護士 阪口 亮)

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