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地震により自宅のブロック塀が倒れ、通行人に怪我を負わせた場合の責任

Q:先日、震度5の地震により、自宅の敷地内のブロック塀が倒れ、たまたま通行していた人の身体に当たり、その人は全治2週間の怪我を負いました。私は損害を賠償しなければならないのでしょうか。

 

A:一般的には、震度5の地震の場合、ブロック塀の所有者は通行人に生じた損害(治療費等)を賠償する責任を負う可能性が高いです。

【解説】

1 土地工作物責任とは何でしょうか。

自宅敷地内のブロック塀は、土地の工作物に該当し、民法717条1項の工作物責任が問題になります。

工作物責任とは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(その工作物が通常有すべき安全性を欠いていること)があった場合に、その瑕疵による損害を賠償する責任のことを言います。特に震災時に問題となる「工作物」としては、ブロック塀以外にも、屋根や崖の擁壁、石垣、造成地などが考えられます。

この賠償責任は、第一次的には工作物の占有者にあり、占有者に注意義務違反がない場合は工作物の所有者にあります。なお、所有者は、何ら注意義務違反がなかった場合でも、責任を負わなければならないのが原則です。

2 常に工作物責任を負うのでしょうか。

予測不可能な巨大地震が起こった場合、これに起因してブロック塀が倒れ、第三者に損害を生じさせたとしても、所有者は常に工作物責任を負わなければならないというわけではありません。一定の場合には工作物責任を免れることがあります。

すなわち、前記のとおり、工作物責任における瑕疵は、「通常有すべき安全性を欠くこと」を意味しますので、地震によってブロック塀が倒壊した場合でも、ブロック塀自体が「通常有すべき安全性」を備えていた場合には、工作物責任を負うことはありません。

「通常有すべき安全性」の内容に関しては、宮城県沖地震に関する裁判例(仙台地裁昭和56年5月8日判時1007号30頁)が参考になります。同裁判例は、地震によりブロック塀が倒壊して通行人が死亡した事故に関して、「本件ブロック塀がその製造された当時通常発生することが予測された地震動に耐えうる安全性を有していたか否かを客観的に判断し、右の点につき安全性が欠如し或いは安全性の維持について十分な管理を尽くさなかった場合には、本件ブロック塀の設置又は保存に瑕疵があるものというべきである。」とし、「本件ブロック塀築造当時においては、震度「5」程度の地震が仙台市近郊において通常発生することが予測可能な最大級の地震であったと考えるのが相当」であり、「本件ブロック塀の設置につき瑕疵があったというためには、・・・本件ブロック塀が、・・・震度「5」の地震に耐え得る安全性を有していなかったことが明らかにされなければならない。」と判断しました。

つまり、この裁判例では、仙台市近郊において通常発生することが予測可能な地震のうち、最大級の地震に耐えられるか否かが基準とされています。その上で、ブロック塀の設置当時、震度「5」の地震が予測可能であったが、ブロック塀には震度「5」の地震に耐え得る安全性が備わっていなかったので、工作物責任が認定されています。

したがって、この裁判例を踏まえると、近郊で通常発生することが予測可能な最大級の地震に耐え得る安全性が備わっていれば、工作物責任を免れる可能性があります。

3 震度「6」で工作物責任を負うのでしょうか。

前記の裁判例等を踏まえると、一般的には、震度「5」程度以下の地震の場合は、それを想定した安全性を有する必要があり、これを欠く場合には工作物責任を負うものと考えられます。

では、震度「6」以上の場合は、一律に工作物責任を免れるのか、という点が気になるところですが、昨今の地震発生状況に鑑みれば、震度「6」以上の地震が予測不可能とは言えない状況であるため、一律に工作物責任を免れるとは断言できません。この点に関する裁判例も十分に蓄積されていない状況です。

したがって、震度「6」レベルの地震についても想定したうえで、ブロック塀等の工作物の通常有すべき安全性について検査しておく方が望ましいと言えます。また、地震が起こり、第三者に損害を生じさせた場合には、法的責任の有無を検討した上で賠償等の対応を行うことが重要ですので、早期に弁護士に相談することをお勧めします。

(弁護士 阪口 亮)

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