最新コラム・FAQ

相手方に住所を知られたくありません。

Q:私はある男に300万円を貸しました。何度か返してくれと頼んだのですが、返してくれるどころか、最終的に逆上した相手方から暴行を加えられ、怪我をしました。
お金は返してほしいし、怪我の治療費や慰謝料も請求したいです。
ただ、そういう相手方なので、お金を請求することで、お礼参りなどされるのではないかと非常にこわいです。
とくに、訴訟をする際には、訴状に住所を記載しなければならないと聞いたことがあります。
相手方に住所を知られずに裁判をすることはできるのでしょうか。

 

A:弁護士に依頼し、工夫をすることで、住所を知られることを避けながら、訴訟を行うことは可能です。

 まず、弁護士に事件をご依頼いただきますと、交渉段階では弁護士が依頼者を代理して相手方とすべての交渉を行いますし、弁護士が依頼者の住所を相手方に教えたりすることはしません。

 問題は、交渉が決裂し、訴訟に至る場合です。

 すなわち、訴状には、「当事者の氏名又は名称及び住所」を記載するものとされています(民事訴訟法規則第2条第1項1号)。また、代理人に依頼して訴訟を提起する場合には、委任状を裁判所に提出しますが、委任状には委任者の住所を記載します。訴状は相手方に郵送されますし、委任状は訴訟記録を構成し、誰でも閲覧できるものです(民事訴訟法91条1項)。

 そこで、訴訟をすると、訴訟当事者の住所は、必ず相手方に知られてしまうのではないか、というところが問題になります。この点、実務においては、相手方に住所を知られたくない事情がある場合には、一定の工夫をもって、手当がなされています。
すなわち、現在の裁判所においては、訴状や委任状に実際の居住地を記載しないことについてやむを得ない理由がある場合には、実際の居住地の記載を厳格に求めないという運用が許されています。

 そこで、弁護士実務においては、相手方に住所を知られたくないような事情があるケースにおいては、訴状や委任状の住所に、弁護士の事務所所在地を記載するなどして、相手方に住所を知られないような工夫がなされるところです。

 なお、裁判所の取り扱いに関連する通達として、「訴状等における当事者の住所の記載の取扱いについて(事務連絡)」(平成17年11月8日付)、「人事訴訟事件及び民事訴訟事件において秘匿の希望がされた住所等の取扱いについて(事務連絡)」(平成25年12月4日)があります。


 したがって、頭書のご相談のように、相手方に住所を知られたくないような相当な理由がある場合には、裁判所に事情を説明の上、訴状や委任状の住所記載欄には、代理人弁護士の事務所所在地を記載し、またその後に裁判に提出する資料に原告の住所が推知されるような情報がないか精査することで、相手方に住所地を知られずに訴訟を進めていくことが可能となります。

 もっとも、裁判所提出資料以外の方法によって(たとえば探偵を雇われたりあとをつけられたり)、相手方にこちらの住所がばれてしまう可能性を完全に排除することはできません。相手方からの加害が予想されるようなケースでは、警察との連携も視野に入れて、弁護士と十分に情報共有を行い、あらゆる事態を想定して、安全に最大限気を払う必要がございます。


 相手方がこわくて、正当な権利の実現を躊躇されている方は、一度弁護士までご相談いただくことを検討ください。

(弁護士 池本直記)