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会社の飲み会での怪我と使用者責任


Q 会社の飲み会で酔っ払った上司から突き飛ばされて、転んで大けがをしました。治療費や慰謝料を請求したいのですが、その上司は至るところから借金をしているような人で、事件後会社も辞めてしまいました。お金のない人を相手に裁判をしても意味がないときいたことがありますが、私は泣き寝入りするしかないのでしょうか。



A 会社に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。




1 相手方に資力がない場合


 酔って暴行を加えてきた上司に対して、不法行為に基づく損害賠償請求ができることは当然です。
しかしながら、お金のない方を相手に裁判をして勝訴をしても、現実的には回収できない可能性があります。
たとえば、仮に裁判をして、「500万円支払え」という判決がでたとしても、お金のない方の負債を国が立て替えて払ってくれるわけではないので、相手方に500万円の資力がないと、せっかく勝訴判決を取得したとしても、ただの紙切れにすぎません。
被害者にとって、加害者に資力がないことほど不幸なことはありません。損害賠償請求事件において、「ない袖はふれない」という反論ほど被害者の頭を悩ませる反論はありません。

2 本件では泣き寝入りするしかない?


 では、本件で、上司がお金を支払えない場合、被害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。この点については、興味深い裁判例が存在します。


東京地裁平成30年1月22日判決労判 1208号82頁は、簡略化すると、次のような判断を行いました。

・会社の従業員であったXが、職場の忘年会兼送別会の二次会で、同僚であった者から暴行を受け傷害を負った。

・本件忘年会は一次会、二次会を通じて会社の職務と密接な関連性があり、事業の執行につき行われたとして、会社の使用者責任を認めた。

つまり、会社の忘年会において受けた暴行による損害につき、会社が責任を負うと判断したのです。




3 使用者責任


 上記の裁判例が会社の責任を認めた理由は、会社が使用者責任を負うとしたことにあります。使用者責任とは、ある者が他人を使用して事業を行っている場合に、当該被用者が第三者に加えた損害については、使用者も責任を負担しなければならない、というものです。民法715条に規定があります。

(使用者等の責任)
第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 (略)

 上記の東京地裁の裁判例は、当該忘年会が忘年会と定年退職者、異動者の送別会の趣旨で開催されたものであったこと、被害者は当日休みであったにもかかわらず、事前に上司から参加を促されていたこと、忘年会には店舗の従業員及びアルバイト全員が参加していたこと、忘年会の二次会は公共交通機関による帰宅が不可能な午前2時30分頃から開催されていたこと、等の事実を認定し、同事実らを総合的に考慮し、「忘年会は一次会、二次会を通じて会社の職務と密接な関連性があり、事業の執行につき行われた」と判断し、会社の使用者責任を認めました。

4 被害者としてとりうる手段


 東京地裁の裁判例を前提にすると、会社の飲み会が会社の職務と密接に慣例性があり、事業の執行につき行われたと言える場合には、被害者は、会社に対する損害賠償請求を行うことができる可能性があります。
飲み会がそのような性質を有するかどうかは、飲み会の趣旨、開始時間、参加メンバー、これまで同種の飲み会が開催されたか、事実上参加が強制されるような性質のものであったか、といった事実によって左右されます。
 飲み会がそのような性質のものであったのであれば、会社に対して、損害賠償を請求できる可能性があるといえるでしょう。

以上