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2020年10月15日

相続・遺言

民事信託・家族信託とはなんでしょうか。

Q:最近、「民事信託」とか「家族信託」といった言葉を耳にしますが、どのような制度であり、どのような場面で用いられるものなのでしょうか。

 

A:「民事信託」や「家族信託」は、信託法上の信託のうち、主として贈与によって財産の管理・承継を図るために利用される信託のことを言います。昨今、民事信託の有用性が社会的に認識されており、様々な場面で信託制度を用いることが検討されています。

【解説】
1 信託制度について
 信託においては、財産の権利を移転させる人(「委託者」)と、その委託を受けて当該財産の管理又は処分等を行う人(「受託者」)、当該財産に関して給付の利益を受ける人(「受益者」)の三者が登場します。
信託とは、委託者が、受託者に財産権を移転し、一定の目的に従い、受託者が受益者のために当該財産(信託財産)を管理・処分する制度のことをいいます。委託者から受託者に財産権が移転する点で、代理や委任制度とは異なります。
この信託制度は、家族間における財産管理、財産承継の方法の一つとして利用することが可能であり、特に、生前の財産管理から、死後の財産承継まで、高齢者の財産を高齢者の意思に沿って管理・運用することができるという点が社会的に認識されて以降、次第に信託制度が活用されるようになっています。

2 民事信託の具体的な場面
(1)老後の財産管理
 例えば、本人(70歳)が、高齢で身体の衰えにより、施設への入所を余儀なくされ、自己所有の自宅不動産を管理できなくなった場合の財産管理の方法として、信託制度を用いることが考えられます。
 すなわち、自宅を貸家に出し、家賃収入を得る(その収入で施設料を支払う)ことを目的として、本人(委託者)が、息子(受託者)に対し、自宅不動産(信託財産)の管理・運用を委ね、その所有権を譲渡します。息子は、この信託目的に従って、自宅を貸家に出して、家賃収益を上げ、本人は、委託者兼受益者として、この家賃収益分を受け取るということが考えられます。
 

(2)親が亡くなった後の財産承継・管理の問題
 例えば、本人(70歳)が、収益マンションを所有し、定期的な賃料収入があるところ、本人の死亡後は、障害のある息子に当該賃料収入を受け取らせたいという場合、信託制度を用いることによりこれを実現することができます。
 すなわち、本人が、受託者との間で、当該マンションを信託財産とした上で、本人の生前には本人が、本人の死亡後は息子が定期的に賃料収入を受け取ることができるような内容で、信託契約を締結することが考えられます。このような信託によって、本人の死亡後も、間断なく財産管理を続けながら、財産の承継を図ることができます。
なお、この場合の受託者は、不動産を管理できて、かつ信頼できる親族・知人でも問題ありませんが、財産の規模等によっては、信託銀行や信託会社などの利用も検討した方がよいケースもあります。

(3)事業承継の問題
 例えば、本人が、会社の代表者兼所有者であり、死亡後は会社の全株式を息子に承継したいと考える場合、他に子がいれば、全株式を息子に承継すると遺留分侵害の問題が生じる可能性があります。しかし、信託制度を用いることにより、遺留分の問題を回避し、上記の事業承継を実現することが可能となります。
 すなわち、株式の権利は、①配当を受ける権利等(自益権)と②議決権を行使する権利等(共益権)に区別することができるため、事業承継させたい息子には②の議決権を行使する権利等(厳密には、どのように議決権を行使すべきかを受託者に指図する権利)を残し、他の子には①の配当を受ける権利等(受託者から配当を受け取る権利等)を残すということが考えられます(ただし、非公開会社の株式であることが必要であると解されています。)。
 このように事業承継の場面において信託制度を用いることにより、株式の権利を自益権と共益権に分けて承継するのと実質的に同様の効果を実現することが可能となりますし、遺言や遺産分割などによる株式の承継手続が不要であるため経営に間断が生じないという利点もあるといえます。

3 信託制度を利用する場合は・・
 上でご説明した場面以外にも、離婚や不動産管理・活用など様々な場面で信託制度を利用することが考えられ、どのような信託スキームを利用すべきか否かは、本人の目的や財産状況等によって多種多様であるため、個別具体的な事案に応じて検討することが必要です。
 また、信託スキームによっては、本来享受できるはずの税務上のメリットを享受できないことも想定されるため、法律面のみならず税務面での検討も不可欠です。
 このように信託制度は社会的に有用であるものの、専門的な知見が必要となりますので、ご利用を検討される際には、弁護士・税理士に相談することをお勧めします。

(弁護士 阪口 亮)