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養育費を支払ってもらえない場合、どのように回収すればよいのでしょうか。

Q:私は、前夫と離婚した際、「長男(10歳)が成人に達するまで、前夫が月6万円の養育費を支払うこと」を内容とする公正証書を作成しました。離婚後3年は毎月きちんと支払ってもらえていたのですが、ここ数か月間は、ずっと支払ってもらえていません。何か回収できる方法はないのでしょうか。

A:公正証書に執行受諾文言があれば、直ちに強制執行の申立てを行い、前夫の財産から強制的に養育費を回収することが考えられます。前夫の財産状況を把握していない場合であっても、民事執行法上の「第三者からの情報取得制度」や「財産開示手続」などを利用することにより、前夫の財産情報を取得し、当該財産を対象として強制執行を行うことが可能です。

 

【解説】

1 強制執行とは
 強制執行とは、私法上の権利(請求権)を法律に従って(裁判所・執行官を介して)強制的に実現するための手続です。日本では自力救済が禁止されていますので、例えば、債権者が、債務者の自宅に押しかけ、勝手に金目の物を持ち出し、それを換金して債権の回収を図る、ということは許されません。
 金銭の支払いを求める権利を有する者(例えば、養育費の請求権者、貸金の貸主、交通事故の被害者など)は、債務名義(平たく言えば、強制執行を行うための資格書類のようなものであり、確定判決や執行受諾文言付公正証書などが該当します。)を取得したうえで、裁判所に対して強制執行の申立てを行う必要があります。
 しかし、強制執行の申立てには、執行の対象となる債務者の財産を特定する必要があるところ、債務者と疎遠になっている場合などでは、債務者の財産状況を把握していないことが少なくありません。従前の法律では、債務者の財産状況を把握する方法が限られていました。

2 改正民事執行法による新制度の概要
 2020年41日に施行された改正民事執行法によって、①債務者以外の第三者からの情報取得手続(以下、単に「情報取得手続」といいます。)が新設されたのみならず、②従前の財産開示手続を実効的なものにするための見直しがなされました。以下で概略をご説明します。

(1)情報取得手続について
 情報取得手続は、簡単に言えば、債務者以外の第三者から、債務者の財産に関する情報を取得することができる制度です。債務名義を有する債権者の申立てにより、一定の要件のもとで、裁判所が、債務者以外の第三者に対して、情報の提供を命令し、当該第三者が情報を回答することにより、債権者は情報を取得することができます。
 この制度を利用すれば、次の3つの照会先から以下のような情報を取得することが可能となります。

①金融機関(銀行、信金、労金、信組、農協、証券会社等):
 預貯金債権や上場株式、国債等に関する情報を取得することができます。
②登記所:
 土地・建物の所有権等に関する情報を取得することができます。
③市町村、日本年金機構等:
 給与債権(勤務先)に関する情報を取得することができます。
※②③については、後述の財産開示手続の申立てを先に行う必要があります。
※③については、養育費債権や生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者のみが申立て可能です。

 (2)財産開示手続
 財産開示手続とは、債務名義を有する債権者の申立てにより、執行裁判所が債務者を呼び出し、債務者に自己の財産について陳述させる手続です。同制度は、平成15年に設けられたものであり、従前は、以下の2つの問題がありましたが、今回の改正によりその点が見直されました。

①まず、従前は、財産開示手続の申立権者が確定判決等を有する者に限定されていましたが、今回の改正により、執行受諾文言付きの公正証書を有する者や仮執行宣言付判決を得た者等も財産開示手続を利用することができるようになりました。
②また、従前は、財産開示手続を無視して出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合でも、30万円以下の過料(刑事罰とは異なります。)で済まされるため、罰則として弱いという問題がありましたが、今回の改正により、不出頭等の場合は刑罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)による制裁が科されました。これにより、手続の実効性の向上が図られています。

3 手続の利用例(設例の場合)
 冒頭の設例では、相談者は、養育費請求権について執行受諾文言付きの公正証書を有するため、情報取得手続と財産開示手続の両方を利用することが可能です。
 財産開示手続は、前夫が出頭しなければ財産の開示を受けることはできませんが、情報取得手続を利用すれば、前夫の預貯金口座の有無及び支店名・残高等の情報や、前夫の所有する不動産の有無及びその所在地等の情報、さらには前夫の勤務先等の情報を取得できる可能性があります。
 もし同手続により前夫の預貯金口座等を特定できれば、強制執行の申立てを行うことが可能となります。

4 弁護士を活用する場面
 民事執行法の改正により、債権者本人だけでも、債務者財産の開示制度を利用しやすくなりました。
 もっとも、情報取得手続は、照会先が金融機関等に限定されており、必要十分な情報を取得できない場合も想定されます(例えば、債務者の金銭信託の信託受益権、生命保険の解約返戻金、自動車の所有権、暗号資産等に関する情報はできません。)。
 他方で、弁護士であれば、「弁護士会照会」という制度を利用し、所属弁護士会を通じて、第三者の機関に情報を照会することができ、照会先に限定はありません。
 また、債務者の財産情報を取得できた場合でも、それで解決するわけではなく、当該財産に応じて適切な強制執行手続を選択し、申立てを行う必要があります。
 もしご自身で財産開示制度を利用することに不安を感じる方や、その後の手続も含めて専門家に委ねたいという方は、弁護士にご相談することをお勧めします。

(弁護士 阪口 亮)