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差押禁止債権の範囲の変更(民事執行法改正)

Q:先日、給与に対する差押命令が届きました。今後、給与を受け取ることができなくなるのでしょうか。元々給料の支給額は低く、他に預貯金等の資産もありませんので、差押を受けた状態で生活するのはとても苦しいです。何か手立てはないでしょうか。

A:給与の差押えを受けた場合でも、給与全額が差押えの対象になるわけではありません。また、給与の差押えによって生活に著しい支障が生じる場合は、差押禁止債権の範囲を変更する旨の申立てを行うことも考えられます。

 

【解説】

1 給与等を手元に残せる範囲(差押禁止債権)
 債権者は、債務者が任意に金銭を支払わない場合、強制執行の要件を備えたうえで、債務者の給与や退職金に対して差押えを行い、債務者の勤務先に対して取立てを行うことができます。勤務先が取立てに応じる場合は、債権者は勤務先から差押対象の給与等の支払いを受けることができます。
 もっとも、債務者の最低限度の生活を保障するために、原則として給与等(手取額)のうち4分の3に相当する部分については、差押えが禁止されています(この部分を「差押禁止債権」と言います。)。
 つまり、債務者は、給与等を差し押さえられた場合でも、そのうち4分の3に相当する額については、債務者の手元に残るため、それを生活費等に充てることができます。
 ただし、債権者の有する債権が養育費や婚姻費用などの「扶養義務等に係る債権」である場合は、その性質上、給与等のうち2分の1に相当する部分まで差押えを行うことができます。

2 給与等を手元に残せる金額の変更
 上記の差押禁止債権の範囲は画一的なものであり、具体的な債務者の生活状況によっては、給与等の4分の3を差押禁止とするのみでは生活保障として十分でない場合もあります。
 このように給与等の差押えによって債務者の生活に著しい支障が生じる場合は、債務者は、裁判所に対し、差押禁止債権の範囲の変更を申し立てることができます。申立てにあたっては、債務者の生活に著しい支障が生じる事情を資料とともに裁判所に説明する必要がありますが、申立てが認められた場合は、差押命令の全部又は一部が取り消され、債務者は最低限必要な生活資金を手元に確保することができます。
 ただし、差押禁止債権の範囲を変更できたとしても、債務額が減るわけではなく、むしろ、完済までの期間が延びることで遅延損害金が増える可能性もある点には留意が必要です(債務を整理するためには、債権者との個別交渉による任意整理や、民事再生・破産等の法的手続を行う必要があります。)。

3 変更申立てのタイミング(改正法)
 差押禁止債権の範囲の変更の申立てを行うべき時期については、民事執行法で定められていますが、20195月に民事執行法が改正され、以下のとおりルールが変わりました。
 改正前の民事執行法下では、債権者は、差押命令が債務者に送達された日から1週間を経過した段階で、債権の取立てを行うことができるとされていました。債権者が取立てによって債務者の勤務先から給与等の支払いを受けてしまうと、執行手続が完了してしまうため、債務者は、差押命令が送達された日から1週間以内に、差押禁止債権の範囲の変更の申立てを行う必要がありました。
 しかし、差押命令が送達されて1週間という短期間のうちに、債務者が差押禁止債権の範囲の変更の申立てをすることは事実上困難であり、債務者の手続保障として不十分であるとの指摘がなされていました。
 そこで、今回の民事執行法の改正により、債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から4週間を経過しなければ、取立てを行うことができないとされることになりました。このルールは、20204月から施行されています。
 ただし、債権者の債権が養育費や婚姻費用などの「扶養義務等に係る債権」である場合は、差押えの対象が債務者の給与等であったとしても、改正法による影響はなく、引き続き債務者に差押命令が送達された日から1週間が経過すれば、取立てをすることができることになります。したがって、養育費や婚姻費用の債務者としては、給与等の差押命令を受けた場合に生活に著しい支障が生じるのであれば、早急に差押禁止債権の範囲の変更を申し立てる必要があります。

4 給与等の差押を受けた場合の対応
 債務者が給与等に対して差押命令を受けた場合は、裁判所から書類が届きます。その書類の中に、差押禁止債権の範囲の変更の申立てが可能であることや、申立てをすべき裁判所、申立てをすべき時期、申立てに必要な書類等が記載されている書面があると思います。
 差押命令を受けた場合は、まずは裁判所からの書類の内容をよく読むことが重要です。そのうえで、差押禁止債権の範囲の変更や債務整理手続の申立ても含め、速やかに今後の対応を考える必要があるといえます。

以上