不貞を理由とする慰謝料について

高額所得者の離婚

婚姻費用・養育費の算定方法における特殊性

1. 算定表の上限

婚姻費用・養育費の額を定める際には、裁判所によりが令和元年12月23日に公表した改定標準算定表(令和元年版)を参照することが一般的です。
しかしながら、同算定表においては、義務者(婚姻費用・養育費を支払う側)の年収を、給与所得者については2000万円、自営業者については1567万円を上限として作成されているため、義務者が高所得者の場合には、そのままあてはめて利用することはできません。

そこで、算定表の基礎となっている標準算定方式に立ち返って、あるいは標準算定方式を修正して、婚姻費用・養育費を算定する必要があります。

2. 高所得者の婚姻費用の算定

ア 考え方

高額所得者の婚姻費用の算定方法の考え方には、主に次のような考え方があります。

① 算定表の上限額を婚姻費用とする考え方
算定表の上限を超える場合は、超える部分はすべて資産形成にあてられるものと考えて、算定表の上限を婚姻費用の金額とする考え方です。
もっとも、この考え方については、収入が高額となれば、収入に応じて生活費も相応に高額になるものであり、算定表の上限を超える部分がすべて資産形成に充てられると考えるのは合理的ではないという批判があるところです。
② 標準算定方式の考え方を採用するが、基礎収入割合等を修正して算定する考え方

基礎収入を算定し、これを生活費指数で夫婦それぞれに分けるという標準算定方式の考え方を基礎としますが、総収入から控除するべき基礎収入の割合を変更する等の修正をして、婚姻費用を算定する方法です。統計資料や当該家庭の貯蓄実績により、収入のうち、貯蓄に回される部分を控除する考え方もあります。

「年収2000万円までの基礎収入割合は概ね34ないし42パーセント(ただし高額所得者の方が割合は小さい。東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁参照)とされているところ,年収2000万円を超える高額所得者の場合は,基礎収入割合はさらに低くなると考えられるから,抗告人の職業及び年収額等を考慮して,抗告人の基礎収入割合を27パーセントとするのが相当」

引用例:福岡高裁平成26年6月30日判例タイムズ1410号100頁

養育費に関する裁判例ですが、基礎収入の算定にあたり、基礎収入割合を修正して標準算定方式を利用すべきと判断しています。


「抗告人は,平成26年に給与収入として2050万円を得たほか,不動産収入473万9254円及び配当収入1038万円(ただし,いずれも経費を控除した後の所得金額)を得ており,平成27年以降も同程度の収入を得る稼働能力があるものと考えられる。この不動産収入及び配当収入を0.8(1-職業費の割合0.2)で除して給与収入に換算すると1889万9067円となり,抗告人の給与収入総額は3939万9067円となる。
 この額は,いわゆる標準算定表(判例タイムズ1111号285頁参照)の義務者の年収の上限額2000万円を大幅に超えていることに鑑み,抗告人の基礎収入を算定するに当たっては,税金及び社会保険料の実額(1348万9317円)を控除し,さらに,職業費,特別経費及び貯蓄分を控除すべきである。」

引用例:東京高裁平成28年9月14日判例タイムズ1436号113頁

給与収入2050万円と不動産収入473万9254円及び配当収入1038万円があった者の基礎収入の算定について、税金、社会保険料の実額、職業費、特別経費及び貯蓄分を控除して算定するべきと判断しています。


『改定標準算定表においては義務者の自営年収の上限が1567万円までしか想定されていないところ、原審相手方の事業収入が前記上限の5倍近くになることからすると、本件で単純に改定標準算定表を用いることはできない。また、前記上限からの超過額が甚だしいことに照らすと、当該上限(1567万円)をもって原審相手方の事業収入と擬制するのは相当でない。・・・そこで、夫婦分に相当する基礎収入を算定し、これを生活費指数で按分するという本件算定方式を維持した上で、高額所得者である原審相手方においては総収入から控除する税金や社会保険料、職業費及び特別経費について、原審相手方における事業収入の特殊性を踏まえた数値を用い、さらに一定の貯蓄分を控除して、同人の基礎収入を修正計算するのが相当である。』

引用例:大阪高裁令和4年2月24日家庭の法と裁判43号69頁

妻を無収入、夫の自営収入を約7481万円と認定した上で、総収入から控除する税金や社会保険料、職業費及び特別経費について、当該事業収入の特殊性を踏まえた数値を用いた上で、一定の貯蓄分を控除して、基礎収入を修正計算するのが相当と判断しています。

③ 同居中の生活レベル等から算定する方法

高額所得者については、総収入や統計資料等から標準算定方式を使って婚姻費用を算定するのは困難であるとして、標準算定方式を用いずに算定する考え方です。具体的には、同居中の生活レベル、生活費支出状況と、現在の権利者の生活費支出状況から、必要分を加え、浪費部分を除くなどして相当な婚姻費用を裁判所が裁量で算定します。
裁判所が判断するための証拠資料の収集に時間を要することから審理が長期化しやすいとの指摘があります。

『一般に,婚姻費用分担金の額は,いわゆる標準算定方式を基本として定めるのが相当であるが,本件では,義務者である抗告人が年収1億5000万円を超える高額所得者であるため,年収2000万円を上限とする標準算定方式を利用できない。高額所得者については,標準算定方式が予定する基礎収入割合(給与所得者で34ないし42パーセント)に拘束されることなく,当事者双方の従前の生活実態もふまえ,公租公課は実額を用いたり,家計調査年報等の統計資料を用いて貯蓄率を考慮したり,特別経費等についても事案に応じてその控除を柔軟に認めるなどして基礎収入を求める標準算定方式を応用する手法も考えられる。しかし,抗告人の年収は標準算定方式の上限をはるかに上回っており,職業費,特別経費及び貯蓄率に関する標準的な割合を的確に算定できる統計資料が見当たらず,一件記録によっても,これらの実額も不明である。したがって,標準算定方式を応用する手法によって,婚姻費用分担金の額を適切に算定することは困難といわざるを得ない。
 そこで,本件においては,抗告人と相手方との同居時の生活水準,生活費支出状況等及び別居開始から平成27年1月(抗告人が相手方のクレジットカード利用代金の支払に限度を設けていなかったため,相手方の生活費の支出が抑制されなかったと考えられる期間)までの相手方の生活水準,生活費支出状況等を中心とする本件に現れた諸般の事情を踏まえ,家計が二つになることにより抗告人及び相手方双方の生活費の支出に重複的な支出が生ずること,婚姻費用分担金は飽くまでも生活費であって,従前の贅沢な生活をそのまま保障しようとするものではないこと等を考慮して,婚姻費用分担の額を算定することとする。』

引用例:東京高決平成29年12月15日判例タイムズ1457号101頁

妻は無収入、夫の給与所得約1億5320万円の事案において、夫婦の同居中・別居後の生活水準から婚姻費用を算定する方法を採用し、婚姻費用を算定しています。

3. 高所得者の養育費の算定

婚姻費用の場合と異なって、養育費の場合は、算定表の上限で頭打ちとして養育費を算定するケースがほとんどです。支払い義務者の年収が算定表の上限を超える場合においても、子どもに必要な生活費が比例して増えるわけではないと考えられているからです。
もっとも、両親の地位、経歴、子の意思等から、子に特別な出費を要する教育(海外留学等)を受けさせることが妥当なものと言える場合には、当該教育費用を養育費に加算することも可能です。

4. 収入の把握の注意点

高所得者の場合、収入を複数箇所から得ていることも多いため、確定申告書や所得証明書により、漏れの無い収入の把握が必要となります。

また、節税と称して、実際には経費性のないものを経費として申告し、確定申告書上の所得を圧縮しているケースもあります。
税務署から特段問題とされず、経費として申告されているものであっても、婚姻費用や養育費の算定の際の基準となる収入との関係では、経費性が認められないものもあります。
その場合には、一つ一つの経費について、収入を得るために当該経費が必要ではないことを主張・立証し、相手方の適正な収入額を把握・主張する必要があります。

財産分与にあたって注意するべき点

1. 財産分与にあたって注意するべき点

高所得者の財産分与には、次のような特殊性があります。

① 資産の多様性
資産自体の多さや特殊な取得方法・保有方法、資産内容の複雑性ゆえに、資産の漏れのない把握が困難な場合があります。
② 資産評価の困難性
資産の取得方法や保有方法が特殊であったり、自社株が存在したり、資産評価の方法が複雑であったり、一義的な評価が困難な場合があります。たとえば、非公開会社の株式の評価方法には、複数の評価方法があり、それぞれの評価によって相当の評価幅がでてしまうこともあります。
③ 職業の特殊性
医師、経営者、スポーツ選手等、特殊な資格や技能によって資産を形成している場合には、財産分与における2分の1ルールをそのまま貫くことができない場合があります。

2. 2分の1ルールの修正の可能性

財産分与の割合は、原則として2分の1とされています。原則2分の1であり、例外的に財産形成への寄与度の差が大きく、差を考慮しないと実質的に公平とはいえない場合にのみ割合が変更されます。

実務的には、財産分与の寄与度の割合が修正されることはほとんどありません。たとえば、共働きで収入に差があっても分与割合に影響しないことがほとんどです。また、専業主婦のケースでも、稼働する夫が収入を得られるのは他方の家事労働や育児に支えられているからであるといえるので、財産分与の割合は2分の1とされることがほとんどです。

しかしながら、高所得者の場合、財産形成への寄与度を50:50とするのが、必ずしも公平とは言えないケースも多いと言えます。たとえば、医師や公認会計士等の資格職、経営者等の個人の資質によって成功を収めた方、スポーツ選手や芸術家のような特殊な技能によって収入を得ている職業等です。 こういった特別な資格や能力により高収入を得られ、財産形成が行われたと言える場合には、2分の1ルールは修正されます。

『民法768条3項は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して分与額を定めるべき旨を規定しているところ,離婚並びに婚姻に関する事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないものとされていること(憲法24条2項)に照らせば,原則として,夫婦の寄与割合は各2分の1と解するのが相当であるが,例えば,ⅰ 夫婦の一方が,スポーツ選手などのように,特殊な技能によって多額の収入を得る時期もあるが,加齢によって一定の時期以降は同一の職業遂行や高額な収入を維持し得なくなり,通常の労働者と比べて厳しい経済生活を余儀なくされるおそれのある職業に就いている場合など,高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しで支払うことによって一定の生涯賃金を保障するような意味合いが含まれるなどの事情がある場合,ⅱ 高額な収入の基礎となる特殊な技能が,婚姻届出前の本人の個人的な努力によっても形成されて,婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには,そうした事情を考慮して寄与割合を加算することをも許容しなければ,財産分与額の算定に際して個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい。』

引用例:大阪高裁平成26年3月13日判例タイムズ1411号177頁

高額な収入の基礎となる特殊な技能が、婚姻前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後もその才能や労力によって多額の財産が形成されたような場合などには2分1のルールが修正されるべきだとして、結論として医師であった当事者の寄与度を6割と認定しています。

『財産分与の額であるが、前示の一審原、被告の婚姻継続期間、本件離婚に至つた経緯、一審原告の年齢、双方の財産状態、婚姻中における一審原告の医業への協力の程度、子の扶養関係・・・等諸般の事情を考慮して、金二、〇〇〇万円が相当であると認める。
この点に関し、一審原告は、財産分与の額は夫である一審被告の財産の二分の一を原則とすべきであると主張する。なるほど、財産分与の本質は夫婦間における実質的共有財産の清算を中核的要素とするものと考えられるから、例えば、夫の財産が全部夫婦の協力により取得されたものでしかも双方の協力の程度に甲乙がないような場合であれば、財産分与の額を定めるにあたり夫の財産の二分の一を基準とすることも確かに妥当であろうが、本件においては、一審被告が前示の如き多額の資産を有するに至つたのは、一審原告の協力もさることながら、一審被告の医師ないし病院経営者としての手腕、能力に負うところが大きいものと認められるうえ、一審原告の別居後に取得された財産もかなりの額にのぼつているのであるから、これらの点を考慮すると財産分与の額の決定につき一審被告の財産の二分の一を基準とすることは妥当性を欠くものといわざるを得ず、一審原告の主張は採用できない。』

引用例:福岡高裁昭和44年12月24日判例タイムズ146号142頁

資産形成は当事者の医師ないし病院経営者としての手腕、能力に負うところが大きいものであることや別居後に取得された財産もかなりの額にのぼつていることから、財産分与約2億円の請求に土江、結論として2000万円の限度で財産分与を認めました。

3. 資産の多様性

高額所得者の場合には、預貯金等の典型的な財産の他に、様々な形で財産を分散させて保有していることがあります。また資産の内容も通常の評価方法を用いて一義的に評価が定まるものではないこともあります。

ア 自社株

高所得者の離婚の場合、会社を経営しており、自社株の財産分与における取扱いが問題となるケースも多いです。
婚姻前に会社を設立している場合、原則として株式は財産分与の対象になりません。もっとも、会社の維持・発展に、株式を保有していない側の配偶者の貢献が認められれば、財産分与の対象になることはあります。
したがって、そもそも会社設立が婚姻前の場合には、婚姻後の会社の維持・発展への具体的な貢献が認められるか否かがまずもって解決されるべき問題となります。

他方で、婚姻後に設立した会社の場合、原則として自社株は財産分与の対象になります。
多くは非行会社であり、株式に譲渡制限がついていますから、分与の方法(現物として分割するのか、精算金により分割するのか)を検討することになります。
また、非公開株式の評価は、一義的な評価が難しいため、その評価方法を巡ってシビアな問題が生じます。場合によっては、客観性のある第三者による評価レポートを取得することを検討する必要もあります。

イ 不動産の評価

換価の上で財産分与の対象にする場合には、夫婦それぞれができるだけ高い価格で換価することを目指すことになるので、不動産の評価の問題は生じません。もっとも、いずれかが不動産に住み続けたり、現時点で不動産を処分したくない事情がある場合には、不動産の時価を評価した上で、お金で精算する必要があります。
その際、不動産を取得する側としてはできるだけ不動産の評価額を低く見積もった方がよいですが、他方はできるだけ不動産を高く見積もった方が経済的に有利になるので、不動産の評価を巡って、厳しい対立が生じます。
通常の事件の場合は、双方が不動産について不動産会社の査定報告書を取得した上で、裁判官が双方の主張する評価額の間をとるような解決が行われることが多いと思われますが、不動産が投資用不動産がある場合等には評価額のぶれも大きくなりますし、金額自体が非常に大きくなるので、一定のコストをかけてでも、不動産鑑定士による鑑定をすることを検討するべき場合もあります。

なお、当該不動産が特有財産なのか共有財産なのか、当該不動産の取得についての夫婦感の寄与度はどれくらいなのかといったことも問題になります。

4. 法人の財産について

個人と法人とは、法律上、別人格であるため、法人の財産自体は、財産分与の対象にならないのが原則です。あくまで個人の所有する株式が財産分与の対象になりうるにすぎません。
もっとも、法人が実態として存在しない場合や、法人と個人を実質的に同一のものであると評価するような事情のある場合には、例外的に法人の財産も財産分与の対象として考慮されることもあります。

『医療法人X会が実質上一審被告の個人経営と大差ない実情に鑑み、財産分与の額を決定するに当つては、同法人の資産収益関係をも考慮に入れて然るべきであると考える。』

引用例:福岡高裁昭和4年12月24日判例タイムズ146号142頁

医療法人が実質上個人経営の域を出ないことを前提に、医療法人の資産収益関係も財産分与の対象に含めるものと判断しました。

5. 小括

財産分与を求める側からは、漏れのない財産の把握、財産の実態の把握、適切な評価手法の主張・立証がポイントとなります。
他方で、財産分与を求められる側からは、事前対策(婚姻前であれば夫婦財産契約、婚姻後であれば個人財産と法人財産との区別等の資産管理スキームの見直し等)が重要となるといえるでしょう。

3. まとめ

本ページでは、高所得者の離婚において問題となる一部の論点を紹介させていただきました。
高所得者を当事者とする離婚事件は通常の案件よりも論点が多く、またそれぞれの論点における結論の帰趨が結論へ与える影響も大きなものとなり、より慎重に各論点について検討する必要があります。専門家に相談しないと気がつかない論点もありますし、また、同じ論点でも個別具体的な事案の特徴によって結論が正反対になることもあります。離婚をご検討の場合は、まずは当事務所の法律相談をご利用下さい。

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